どの方向に打球が飛ぶかを予測して欲しい。
さて、どのように予測されただろうか。
正解を発表しよう。
左がレフト・センター間で右はライト前。
打者のスイングなどで打球方向を予測することは、感覚的にはそれほど難しくない。先ほどの問いに対する貴方の答えが不正解だったとしても、予測が当たったという経験は少なからずあるだろう。
では我々は一体どのタイミングで、打球方向を察知しているのだろう。
キャッチャーの構えた所?バッターの踏み込み?腰の回転?肘の角度やヘッドの位置?
場面をボールを捕らえる直前に限定して見てみよう。
球種はともにシンカーだろうか?。コースは左がややインコースよりで、右がアウトコース。2枚とも体の傾きや踏み込みは、ほぼ同じ程度。肘の位置はコースに対応するべく左右で異なっている。腰から上半身にかけての回転は左の方がやや多い。左の写真ではバットが既に球を捕らえようとしているのに対して、右の写真では反対方向へ打つためにヘッドを遅らせようという意図があるので、まだバットは出てこない。この様に、踏み込み等がそれほど変わらなくても、インパクト直前まで見ることができれば、予測はより簡単になるし、ここまでの段階で外野手がスタートを切れるのなら結果に大きな違いを生むだろう。とはいえ、実際にはスローで見たり写真で切り抜いたり出来るわけではなく、あっという間の出来事だ。
MLBに限ってのデータだが、外野に飛んだ打球の滞空時間が4.2秒を超えると、90%以上の確率で外野手に捕球される。それより滞空時間が短くなればなるほど、ヒットの確率は上がる。外野手の打球判断はゲームの行方を左右するほど大きなものだ。あらかじめ予測が出来て、一歩でも早く踏み出せるならチームにとって大きな助けとなるに違いない。
少しでも野球に興味がある人なら千葉ロッテマリーンズの岡田 幸文の名前は聞いたことがあると思う。広大な守備範囲で多くのアウトを生み出す名手で、打球予測の早さもしばしば話題になっている。では、彼は一体どのようなヒント得て予測を付けているのだろうか。岡田が素早い第一歩を踏み出した時の打席を見てみよう。
打者は中村、投手は渡辺。捕手はアウトコース低めに構える。投球はスピードガンで103kmを記録している。中村はスローボールに対して、右足を踏み込んだ後に待つような形でスイングに溜めを作り、スイングのタイミングを調整する。ボールを待つ間、右足に体重を乗せている。腰と左足は一塁方向へ逃げて行き、体の回転より遅れてバットが出てくる。これだけ見ると、「なんだ、この打席なら岡田じゃなくても判る」と言いたくなる。では、実際に岡田はこの打席の、どのタイミングで第一歩を踏み出したのか。
岡田は投球前にリズムを取るように体を左右に揺らし、捕手の構えた位置と同じ方向に体重を移動させる(3塁側に構えたら右へ。一塁側なら左)。これ自体はそれほど珍しくはないのだが、驚く事に岡田は中村の左足の踏み込みが終わる直前に始動している。上で見たように、踏み込んだ後ならスイングで判断する事もできる。だが岡田のこの動きは、スイングとかバットにボールが当たる直前とか、そんな生ぬるいレベルではない。明らかにバットが動く前にスタートしている。
とはいえ、アウトコース低めの変化球を打つ際、バットのヘッドが返りすぎると内野ゴロになりやすく、そういう意味では打者が中村の時に限らず構えたコースと球種で判断する事も可能だと言える。このケースでは当初の想定通りのコースにボールが行ったので、より早いスタートを切る事に成功しているのだが、当然、想定と違い逆玉になる可能性も考慮しなければならない。三塁手がセーフティーバントの構えを見てチャージするのとは少々訳が違い、外野手が早めのスタートで判断を誤ってしまえば長打を許しかねない。コースの見極めは、あらかじめの体重移動の後、実際の投球を見て修正されるのだろう。そうなった場合は、このケースと比べてややスタートが遅れるのではないだろうか。そうだとしても充分に早く、岡田の判断が素晴らしい事には変わりはない。
次に、岡田が大きく一歩を踏み出した瞬間の中村のフォームと、引張り時のものを比較してみる。
左は先ほどのgif画像の打席。右が引張り打った時のものだ。
内外のコースに対応して、踏み込みは異なっている。バットの寝方も違うが、これがどの程度参考になるかはわからない。左肘が背中越しに見えるかどうかの違いも確認できる。引張り打った時の画像では隠れているが、左中間方向へ打った打席のものは、背中越しに左肘が見えている。左の画像では、先ほども述べたとおりこの後スローボールに対して溜めを作るので、踏み込んだ段階では引張り打った打席の画像より、体の捻りが多くなっている。それ故、左肘が背中越しに見えるという事だろう。中村の他の打席を確認してみたが、打球方向と左肘の露出具合に一定の法則はなさそうだ。やはり、画像のポイントのみで中村の打球方向を予測するのは難しい。
このプレーで岡田が打球予測をするに至ったと考えられる要素と、スタートまでの動作を整理してみる。
・キャッチャーの構える位置を見て、体の重心を移動させる。
・投球のスピード(変化)や実際の投球コース、打者のタイミングの取り方を見極めた後、スタートを切る。
ここでは、岡田のポジションがセンターである事に注目したい。上記の要素を満たすためにはレフト・ライトでは不都合が出てくる。例えばレフトの守備についている時、捕手の構えた位置は分っても、実際の投球コースの内外はセンターより判別し難い。また、相手打者が左打席に立つ場合、スイングやタイミングの取り方はセンターよりも良く分るだろうが、右打席に立つと打者の背面を眺めながらプレーすることになる。もちろん肘の動きなどは判別不能に近い。このように、もし岡田のポジションがレフト・ライトだったとした場合、試合中、常に打球予測をするという事は困難になるのではなかろうか?センターにいるからこそ、実際の投球やスイング動作の見極めも比較的容易になり、打球予測に対する大きな手助けとなっているのではないだろうかと考える。
それ以外では、当然、スカウティングデータも頭に入っているだろう。
その事が岡田の守備にどれだけの影響をもたらしているかは、非常に興味深い。もし大きな影響を与えているとすれば、まだスカウティングの進んでいない新外国人やルーキーに対してはどのような反応を見せるのだろうか。しかし、こればかりは球場で確認するしかない。そう、低反発球特有のつまらない試合になることが分りきっていても、岡田の守備が見れるのなら、球場まで足を運ぶ価値がある。彼の最盛期のプレーをみることが出来るなんて、これはとても幸せな事じゃないか。
最後に、この一風変わった練習風景の動画を観て欲しい。
まったくおそろしい男だと思う。











