何かを学ぶための代償としては大きすぎる負けだった。
6回表、スコアは4-3でRoyalsが1点リードの展開。先発のJason VargasはノーアウトからMookie Betts, Xander Bogaertsに連続ヒットを許し、ランナー1,2塁とされる。続くDavid Ortizのレフトフライの間にBettsと Bogaertsはそれぞれ進塁。次打者Yoenis Cespedesを迎える場面で、Ned Yost監督はそこまで91球、5.1IP 4H 3R/ER 1BB 8SO 1HRのJason Vargasを諦め、Aaron Crowにスイッチ。この交代の意図は、奪三振でピンチを切り抜けたかったからだと、Ned Yostはゲーム後にコメントを残している。
さて、Aaron Crowを含め、あの場面を任せられるであろう投手を3名(Kelvin Herrera, Wade Davis, Greg Hollandは除く)ピックアップしてみた。あなたなら誰を投げさせただろうか?
Jason Frasor: 57G 43.1IP 2.91ERA(1.98ERA/KC) 44SO 9.1SO/9
Jason Vargas: 5.1IP 4H 3R 3ER 1BB 8SO
Aaron Crow: 63G 56.0IP 3.86ERA 31SO 5.0SO/9
Ned Yostの選択は、上で書いたとおりだ。
そのAaron CrowはYoenis Cespedesを歩かせて満塁としたが、続くAllen Craigから三振を奪い2アウト。
ここまでは続投やJasonFrasor投入ではなく、Crowを選んだNed Yostの勝ちだった。
ここで、このゲームの話しから少しわき道の方へ逸れる。
Paul Dicksonの手で書かれ、2009年に出版された"The UNWRITEN RULES of Baseball"は、その名の通り、アンリトン・ルールやベースボールにまつわる格言などが紹介されている一冊だ。
わが国でも2010年に"メジャーリーグの書かれざるルール"というタイトルで翻訳出版されている。
この本には監督が守るべき"書かれざるルール"である、所謂<ザ・ブック>についても説明されており、まずはそれを本文から引用させてもらう。
"広く受け入れられている見解、戦略的判断、直感、実証済みの公式を磨きあげて凝縮したものといえる。試合中の判断材料となる様々な条件やデータの集大成、「年月をかけて」蓄えた経験則から生まれた慣例ともいえる。" - ザ・ブックについて 「メジャーリーグの書かれざるルール」より引用。
この"書かれざるルール"<ザ・ブック>によって確立された慣例や慣行の支持者はオールドスクールな監督と目され、例としてJim Leyland(前Tigers)の名前が挙げられている。一方で、このオールドスクール的なやり方に決別を厭わない一人として、Royalsの監督に就任する直前のNed Yostが登場する。信じられないかもしれないが、本当にそのように書かれている。例えば、Yostは右打者には右投手を、左打者には左投手をという<ザ・ブック>に基づいた伝統的な投手の起用法について、Bravesのコーチ時代(1991-2001)を振り返り、こう語っている。
"Tom Glavine(LHP)が登板する日には、相手チームは右打者中心のオーダーを組んできた。
しかし、それはこちらの思うつぼだった。Glavineは左打者よりも、はるかに右打者に強かったんだ。"
検証しよう。
Tom Glavineの1991-2001シーズン別の左右対戦成績はこうだ。
vs. RHB
vs. LHB
データは全てBaseball Referenceからの引用。赤い色がついた数字は左右で成績の良かった方を示す。
1991-2001シーズンにTom Glavineが対戦した全打者のうち、右打者の占める割合(BF%)は79.6%となる。これは同期間中のMLBにおける右打者の占める割合が64.1%だった事をみても、多い部類と言えるだろう。成績の優れていた方を示す赤色数字は、SO9とSO/Wを除く項目で対右打者(vs .RHB)の方に多く見られるが、90年代後半からは、逆の傾向になっているのが興味深い。ちなみにRob NyerとBill Jamesの共著"Nyer/James GUIDE TO PITCHERS"によると、Tom Glavineの持ち球はファストボール、サークルチェンジ、カーブ、スライダーで、2000年からはカッターをレパートリーに加えているようだ。
最後に1991-2001の左右別通算成績を見てみよう。
vs. RHB .244/.308/.351 3.11ERA 1.266WHIP 5.8K/9
vs. LHB .266/.326/.367 3.53ERA 1.367WHIP 6.3K/9
それほど大きな差はないが、それでも対右の成績が若干よく見える。だが、遥かに右に強かったとは言い難い通算成績だ。とはいえ、上で見たようにシーズンによっては明らかに対右打者の方が好成績だといえるシーズンもあるので、Ned Yostの言った事は1991-2001の全てに当てはまるわけではないが、全くの間違いという事でも無さそうだ。
何れにせよ、これはちょっとした驚きだ。
Tom Glavineの件では、Ned Yostはデータに基づいた選手起用について好意的に評価している。
RoyalsとRedSoxのゲームに戻ろう。
6回表、Jason VargasをリリーフしたAaron Crowは、Yoenis Cespedesに四球を与え1アウト満塁としてしまうが、次打者のAllenCraigを三振に仕留め、なんとか2アウトまで漕ぎつける。
しかしCrowはこの次の打者であるDaniel Navaに甘く入ったフォーシームをHRされてしまう。
Navaの逆転満塁HRでスコアはRoyals 4-7 Red Sox。ゲームを決めたHRだった。
Daniel Navaはスイッチヒッターだが、明らかに左打席(対右投手)の方が成績の良い選手だ。
キャリアでは対右投手 .290/.384/.425に対し、対左投手は.210/.287/.301。
今シーズンの左右別は、対右投手が .286/.368/.380で、対左投手は.158/.200/.193。
この場面、Daniel Navaはきっと苦手な左投手が出てくるだろうと考えていたようだ。
だから左打席でAaron Crowと対面する事になって、驚いたとコメントしている。
Red SoxのJohn Farrell監督は、左打席(対右投手)でDaniel Navaを打たせる事が出来たのは、我々にとって幸運だったというコメントを残した。
問題: なぜNed YostはTom Glavineの例を経験していながら、この日、データを見て相手が嫌がるであろう策を取れなかったのか。
ここで、もう一度、あの本のページをめくってみよう。
本文から要約する。
Ned Yostは<ザ・ブック>と決別する事を厭わない男だ。そしてそれが成功した先例も知っている。
1954年にNew York Giantsを率いてワールドシリーズを制し、後に殿堂入りも果たしているLeo Durocherについて、Ned Yostは以下のように語っている。
"Leo Durocherは完璧に掟破りの、<ザ・ブック>に逆らったことをした。
その理由を尋ねられて、どんな時も自分の動きを予測されたくないと答えた。
完全に予測不能にしておきたい、とね。" - Ned Yost - 「メジャーリーグの書かれざるルール」より引用。
以上。要約終わり。
Ned YostはDaniel NavaやJohn Farrellにとって予測しえなかったAaron Crowの続投を選んだ。
だがしかし、それはLeo Durocherのように<ザ・ブック>に逆らおうとしたからではない。
あれはむしろ、Ned Yostが自らで作り上げた<ザ・ブック>に従う事を選らんだが故の策だ。
Asked why he didn’t just use Herrera in that spot then, Yost said: “Aaron Crow’s inning is the sixth inning. Kelvin’s is the seventh.”
— Andy McCullough (@McCulloughStar) 2014, 9月 14ブルペンの役割をしっかりと固定することで、リリーバーがゲームに入りやすくする。これが、事あるごとに公言しているNed Yostのブルペンマネージメントの掟だ。
以前にも書いたが、シーズン当初から、Crowがマイナー落ちをした期間を除き、ランナーのいるHigh Leverageの場面ではKelvin HerreraかAaron Crowを起用するのが、今シーズンの決まった形だ。
そして今、Kelvin Herreraが7回の仕事を任されている以上、あの6回の場面でAaron Crowを選ぶのは、自らの<ザ・ブック>に従順なNed Yost監督からすれば当然の策だったのだろう。もちろん、データに基づいた起用などは端から期待するべき場面ではなかった。今日のあの出来事は、そういう話しだ。
最後に。
"The UNWRITEN RULES of Baseball"の著者、Paul Dicksonはこう書いている。
"<ザ・ブック>に頼って生きるものは、<ザ・ブック>によって死ぬ事がある。"